「一枚起請文」は法然上人が入滅される2日前の建暦2年1月23日に、18年間常随給仕された愛弟子、勢観房源智上人にお授けになられたわずか337文字のご文章です。増上寺においても朝夕の勤行や諸法要にてよく拝読している大切なご法語です。
そのうち今月のことばには「此外におく深き事を存ぜば、二尊のあわれみにはづれ本願にもれ候べし」の部分を選びました。これはその前段にあります「唯往生極楽の為にはなむあみだ仏と申してうたがいなく往生するぞと思い取りて申外には別の子細候わず」という法然上人の教えの核心を、間違いありませんと二尊つまり、お釈様と阿弥陀様に改めて誓われた起請文なのです。
法然上人のお念仏の教えは、疑いなく往生すると思って念仏を申しなさいという、いたってシンプルなものですので、逆に何か本当はもっと奥深い教えがあるのではないかなどと思ってしまいます。お釈様以来三国を伝わって今日まで2600年続く仏教、さらには比叡山にて智慧第一の法然房といわれた法然上人が開かれた浄土宗の教えは、まだまだ深淵な教えがあるのではないかなどと疑ってしまいそうになります。実に人間の思考などというものは不確かなものであります。そのような風潮が当時も一部見られたようで、法然上人は往生についてはお念仏を申す外には奥深いことは何もありませんと二尊にはっきり誓われているのです。さらにもし他に奥深い教えがあって、それを秘密にしているならば私は二尊の慈悲から外れ、本願に漏れてしまうでしょうとまで断言しているのです。
「ただ一向に念仏すべし」これこそが法然上人のみ教えです。素直にしっかりお念仏を申しましょう。
教務部長 井澤隆明