月かげのお歌

 法然上人は和語を用いて念仏教化をされた初めての祖師であり、今日その多くがご消息やご法語として伝えられています。

 また上人は多くの和歌をお詠みになられて、阿弥陀仏信仰の「こころ」をわかりやすく伝えられました。和歌というものは日本古来の歌ですが、漢詩に対して日本語で書かれた歌ですから和歌といいます。和歌には一つの決まりがあり、31文字でまとまった内容を伝えるのが基本的な原則です。しかしこの31文字の中には、詠み込まれている「こころ」というものがあり、それを文字の上から汲み取っていくことが大切です。

 さてこの和歌は「月かげ」とのお題で、浄土宗の宗歌でもあり、また吉水流詠唱では月かげの御詠歌として知られているものです。

 この歌は『観無量寿経』の「光明徧照 十方世界 念仏衆生 摂取不捨」という経文をわかりやすくお歌にお詠みになったものです。言葉の意味として「月かげ」とは、光があるから影ができるので月の光ということで、阿弥陀様の光明を指しています。次に「いたらぬ里」とはすべての場所や人のことであり、次の「ながむる人の心にぞすむ」は眺めようとしない人には美しい月が見えないように、お念仏を称えない人には阿弥陀様の光明に照らされていることがわかりません。また「すむ」は念仏を称えると私の心が澄んでいく、さらに私の心に住んでいただけるという掛言葉になっています。

 このように阿弥陀様の智慧と慈悲の光明は万人平等すべての人々に注がれているが、念仏を称える人を対象にお救いいただけるという、ご本願の「こころ」をお詠みになられた大切なお歌です。

八木季生ご法主台下『こころの歌』より

教務部長 井澤隆明