このご法語は二十七ヶ条からなり、法然上人が常々お話しになっていた言葉を集め編集したもので出典は『四十八巻伝』第二十一です。その内容は、生きている間にはお念仏を称えてその功徳が積もり、死んだ時にはお浄土へいかせていただきます。いずれにしてもこの身には、いろいろ思い悩むことなどありませんと思ったならば、生きることも、死ぬことも、何ごとも悩みなどなくなるのです。このように法然上人は、お念仏の生活がいつしか不安や悩みなどない大安心の中に生きることになるのですと常に仰っていたのです。
私たちは時々イライラしたり、またクヨクヨしたり、反対にカッとしたりの日々の暮らしです。心配事や不安の連続で穏やかな生活を望んでいても、現実は必ずしもそうではありません。人間の弱さというか、人間の器の小ささ、そして愚かさを感じる毎日です。そんな心の暗闇に一条の光となって、渇いた心に潤いを与えてくれるのがお念仏であります。
法然上人はお念仏には光明摂取の功徳があるとし、具体的には善導大師の『観経疏』の「光明遍照十方世界念仏衆生摂取不捨」の解釈である三縁説をそのまま取り入れています。それはお念仏を申す者は阿弥陀様と三つのご縁をいただき摂取されていくというのです。第一に親縁とは阿弥陀様と親子のような親しい間柄になります。次に近縁といい、いつも阿弥陀様が近くにおられるようになるご縁、そして最後に増上縁であるが、念仏には滅罪の功徳があり少しずつ高められやがて浄土に往生できるとされています。
お念仏を申すとこの三縁によって安穏に生きられるのであり、今月のことばは浄土宗の人にとって忘れてはならない祖師の言葉です。
三縁山増上寺はこの三縁から名付けられたものです。また今月のことばは浄土宗のご詠歌である吉水流詠讃歌の和讃の部に「いけらば念仏和讃」として収録されていますが祖師の言葉の和讃はこの一曲のみであり、多くの講員によって日々お称えされています。
私たちもしっかりお念仏を申してまいりましょう。
教務部長 井澤隆明