正月も過ぎ本来の落ち着きを取り戻した増上寺の山内ですが、今月は節分追儺式や涅槃会の法要もあり、ご参拝の皆々様をお迎えする準備に追われています。
さて今月のことばは、特に常日頃法然上人が門弟によく話をされていたものを纏めた「常に仰せられける御詞」より選びました。
このご法語は『本朝祖師伝記絵詞』に収録されており、四巻から成るので『四巻伝』ともいわれ、嘉禎3年(1237年)門弟の躭空上人により編纂されています。これは法然上人滅後25年後のことであり、宗祖の伝記としては最古のもので貴重なものです。
今月のことばを現代文にすると、仏のみ名をとなえることによって、浄土に往生できると聞いてもこれを信じないならば、聞かないのと同じであります。またこのことを信じても実際にとなえないならば、信じないのと同じであります。何よりも常に念仏を申すべきであります。このような内容で信と行について明確にご教示いただいているご法語です。
法然上人は「一紙小消息」では冒頭に〝疑うべからず〞と三度も述べ信じることの大切さを伝え、さらに「一枚起請文」ではその結語に〝ただ一向に念仏すべし〞と行の大切さを述べ、信と行共に重要であることを示しております。法然上人在世中より安心派・起行派に分かれて論争があったのも事実でありますが、法然上人は今月のことばのようにこの関係について、まずは念仏申すべきとされています。お念仏の信心が確立すれば素晴らしいことでありますが、現実には凡夫である私たちはそうたやすく信心を持つことは至難のことであります。これは例えれば、縄を綯うように信と行の藁を交互にしぼり一本の縄にするように、どちらも大切であるが、まずは縄を綯うということが重要で、これこそが念仏を申すということであります。
しっかりまずお念仏を申しましょう。
教務部長 井澤隆明