6月を迎え増上寺の境内も深緑と紫陽花の花の美しい季節になりました。

 さて今月のことばは、法然上人のお手紙である『御消息』より選んでみました。このお手紙は誰に宛てたものかはっきりしませんが、『拾遺和語灯録』や『四十八巻伝』に所収されており、内容は念仏する時の心構えである三心の解釈が中心となっています。

 今月のことばの内容は次のようになります。ひとたび浄土に往生して、覚りを開いたならば、急いでこの娑婆世界に還りきたって、神通力を巡らせて、生前に御縁のあった方もそうでない方も、またお念仏の教えを讃える人も謗る人をも、一人残らずお浄土へお導きしましょう。

 浄土宗で伝える教えは、阿弥陀様の本願に乗じて煩悩具足の私たちが極楽浄土に往生することを第一の目的とし、そのために阿弥陀仏の願いであるお念仏を称えることを最も重要な行いといたします。極楽浄土の世界はその名称のように極めて安楽な世界で、この娑婆世界のような苦しみのないとても楽しいゆっくりくつろぐことのできる世界と思われがちですが、実はそうではありません。極楽世界は阿弥陀仏の本願により建立された世界で、すべてが浄化され仏道に精進することが極めて楽しい世界であるのです。仏のみ力により浄土に往生すると煩悩具足のこの私が浄化され、仏道を喜ぶ者にさせていただき、やがて仏菩薩の導きをいただき仏に成らさせていただける世界なのです。そして仏と成って六神通という仏に備わる不思議な力や、方便という衆生を教化救済する力を得て苦しみ多い娑婆世界に戻って多くの人を救済することが第二の目的となるのです。

 これが大乗仏教の基本的理念である自利利他の精神であります。まさしく私たちは浄土に往生し、自らが救われると共にやがて仏となって多くの人々を救っていく者にならなければなりません。浄土に往生して大いなる大乗菩薩道を実践いたしましょう。そのためにはまずお念仏を申してまいりたいものです。

教務部長 井澤隆明