早いもので師走の候となりました。本年をよく省みて新しい歳を迎えたいものです。
さて今月の言葉は「三心料簡およびご法語」より選んでみました。このご法語は善導大師が著した『観経疏』「散善義」に記されている二河白道という譬え話を法然上人が引用されたものです。この二河白道とは。
西に向って旅をしている人がいます。するとその人の前に突然河が現われます。河幅は100歩程であるが、南は焼えさかる火の河、北には水の河が渦巻いていた。その水火の河の分かれ目に1本の白い道が西岸まで通じている。その白い道は幅が4、5寸であるが、常に炎と波浪が襲いかかり渡るにはあまりにも危険であった。後を振り返れば多くの賊徒や猛獣たちがこちらに向かって迫ってきている。絶体絶命のこの人は、どちらに向かっても死を免れることはできないと意を決し、どうせ死ぬならこの危い細い白道を進んでいこうと決心したのです。すると東岸から「この道を真っすぐ進んでいきなさい。死ぬことはありません。もしここにとどまれば必ず死んでしまうでしょう」と語る声がした。また西岸からは「心を定めて直ちにこちらに渡ってきなさい。私はあなたを必ず護ります。水火の河など恐れてはなりません」と語る声がした。
東から「行け」西から「来い」と励ましの声がしたので旅人は、疑いや不安の心が消え決然と白道を進んで、西岸つまり極楽浄土にたどり着きました、という譬え話です。
この話の中、火の河は瞋恚や憎悪、水の河は貪欲や渇愛などの煩悩、多くの賊や猛獣などは無常で五濁悪世の苦界の姿を表します。また河幅100歩は人生100年、4、5寸の白道は私たちのか細い願往生心、東の声はお釈迦様、西の声は阿弥陀様のことです。
法然上人は、人間は平凡に暮らしているようで、その心は三毒煩悩に染まり、その人々が構成する社会であるから五濁悪世の苦界であり、我が身は明日をも知れぬ無常なものです。だからこそしっかり本願を信じお念仏を申し往生すべきことを説かれているのです。
教務部長 井澤隆明