暑い夏が過ぎ、秋の気配が色濃く感じる頃となりました。
今月は法然上人述「往生浄土用心」より選んでみました。この文献は信者の質問に対する法然上人の回答を収録したものです。質問の内容は省略されており、また質問者は不明であるが、10の法語から構成されていて、『拾遺和語灯録』や『四十八巻伝』に所収されています。
その内容は、深く信じて怠ることなくお念仏を称え、往生を疑わない人を、他力を信じる人というのです、となるでしょう。
一般的に「信じる者は救われる」とよくいわれますが、これは本当です。『大品般若経』の注釈書である『大智度論』にも「仏教の大海には信を以って能入す」と記されており、信じることの大切さが説かれています。また法然上人も『選択本願念仏集』の中で「涅槃の城には信を以って能入す」と申されています。
しかしながら法然上人も深く信じることの難しさを十分理解されており、だからこそ怠ることなく念仏を称えていくことを勧められているのです。まさに信と行が車の両輪のごとくはたらくことによって、信が行を励まし、行が信を深めていくのです。このような関係の中でこそ、阿弥陀仏の本願力、つまり他力を信じる人にならせていただけるのです。
浄土宗は易行であるといわれ、たやすく誰もが実践できるものとされていますが、反面難信の法ともいわれ、信じることが大変難しい教えでもあります。
思えば法然上人の二大法語である「一枚起請文」と「一紙小消息」はそれぞれ信と行共に説かれていますが、主に「一枚起請文」は行を、「一紙小消息」は信に重きを置かれているように感じます。
阿弥陀様の「我が名を呼べ」という大悲召喚の言葉の通りしっかりお念仏を申しつつ、本願を信じていきたいものです。
教務部長 井澤隆明