浄土宗開宗850年奉賛局だより(7月)
2024.07.01
語り継ぐ、あるいは語り継がれる 〜後編〜
あの頃の増上寺は、と50年前の浄土宗開宗800年を懐かしむ長老がいらっしゃいました。開宗900年を迎える50年後に増上寺を訪れた方はどのような思いをつぶやくことでしょう。
開宗800年を記念して作られた『開宗和讃』は、「摂取不捨の み光を 仰ぎてここに800年」から「仰ぎて850年」と詞を改めました。50年後の開宗900年の時には「仰ぎてここに900年」となるかもしれません。
東日本大震災復興支援ソング『花は咲く』の歌詞が震災4年後の2015年に「花は 花は 花は咲く 私は何を残しただろう」から、歌の最後の部分のみ「私は何を残すだろう」と変更されたことに通じる感じがします。変更はこの曲を作曲した菅野よう子さんが考え、作詞の岩井俊二さんに相談。歌詞を替えることに賛成をもらったそうです。過去から現在、現在から未来へと流れる時間とその時々に生きる人々によって、大切な思いの表現もまた変化していくということでしょう。
阿弥陀様をご本尊として仰ぎ、仏法を守り念仏道場として存在する増上寺。浄土宗の僧侶の修行の場であり、元祖法然上人のみ教えを広める役目を担っています。一方、江戸から東京へと発展を遂げた都市を象徴するのも増上寺です。近代的な東京タワーと麻布台ヒルズを背景に建つ400年の歴史を持つ三解脱門は江戸東京のランドマークそのものです。徳川家の菩提寺としても、世界に類を見ない「三大蔵経」を有していることに関しても国内外に誇るべきものがあります。
増上寺は「有為転変と万古不易」「伝統と変化」といった両面性を持ち合わせています。相反する概念のように見えますが、それこそが増上寺の持つ魅力となって今後の護持発展につながっていくことでしょう。
私事になりますが、この「奉賛局だより」を前任者である故川村一紀執事より引き継ぎました。上人のご遺志を受け継いだ表現ができたであろうか、各種の慶讃事業を推進できたのだろうかとの懊悩は今後も止むことはないでしょう。
浄土宗は今後も900年、1000年と歴史を刻み続けます。増上寺もまた芝の地でその存在感を増し、歴史を積み重ねていくことと思います。
「浄土宗開宗850年」と語り継ぐ、あるいは語り継がれる節目の年を皆様の協力のもとに迎えられたことに感謝申し上げ、さらには慶讃会・御忌大会を無事勤められた喜びを心に刻み、一旦筆を擱きたいと存じます。
これまでお読みいただき、ありがとうございました。
奉賛局部長 中村瑞貴
※ご寺院の勧募は令和8年4月末まで継続しています。三解脱門大修理をはじめとした慶讃事業及び勧募事業は、不定期で今後も報告する予定です。