慈悲のまなざし
地元紙の連載コーナー「本の世界にようこそ」をいつも楽しみにしています。先日、そのコーナーで堀川惠子さんのノンフィクション『原爆供養塔〜忘れられた遺骨の70年〜』が紹介されました。
広島の平和記念公園にある「原爆供養塔」には、原爆によって命を奪われた約7万人もの遺骨が納められています。その供養塔に毎日通い、静かに掃除を続けていた佐伯敏子さんの物語が描かれる一冊です。
供養塔に通い始めて13年目。佐伯さんは、実際に遺骨が納められている地下室に入り、そこに一部の方々の名前や住所が記されているノートがあることを知ります。それからは、遺骨を家族のもとへ戻そうと、一人一人について根気強く調べ、遺族を訪ね歩いたという実話が語られています。
その本を紹介したコーナーでは、「死者は数として扱われるべきではなく、一人ひとりがかけがえのない存在なのだ」と述べられていました。そして、実際の本では佐伯さんご本人の言葉が綴られています。
「......一人ひとりが、みんな誰かにとって大切な人なんよねぇ......」
昨今、様々な人数がニュースを駆け巡りますが、その一人ひとりもまた、かけがえのない存在なのだということを改めて考えさせられる佐伯さんの慈悲深いお言葉でした。
阿弥陀様は、かけがえのない私たち一人ひとりのことを救いとるためにさとりを得た仏様です。阿弥陀様がご用意下さった極楽浄土も、選び取られたお念仏の一行も、すべて私たちのことを思う大きなお慈悲の御心によるものなのです。そして、今まさに一人ひとりのお念仏の声を聞き、大きなお慈悲の御心で私たちを思い、見守って下さっています。
阿弥陀様がかけがえのない「私」を迎えに来て下さるその日まで、お念仏を称え称えて、大慈悲のまなざしの下で過ごしてまいりましょう。そして、私たち自身も慈悲の心を大切に、より良く過ごしていきたいものです。
本山布教師 工藤大樹
青森教区 西光寺