浄土の楽しみ

 近年では少子化が進み、先祖代々受け継がれてきたお仏壇を、やむを得ず手放すケースが増えてきているようです。こんな相談を檀家さんから受けました。

 自分たちは親から受け継いだお仏壇を守ってきたけれど、嫁いだ娘には任せられない。だからお仏壇を処分したいとおっしゃるのです。この件はまだ娘さんには伝えておられないということでしたので、今一度、娘さんを交えてご家族でお話し合いをされてから改めておいで下さるようにお願い致しました。

 一月ほど過ぎた頃、くだんのご夫婦がおいでになりました。そして、ご主人さんが照れくさそうに、娘さんに叱られたとおっしゃるのです。

 娘さんが、「お父ちゃん、お父ちゃんはこのお仏壇の中には誰が居てると教えてくれたんや? お父ちゃんは『このお仏壇の中にはお前のお爺ちゃんやお婆ちゃんが居てはるんやで。南無阿弥陀仏って言って拝みや。ご先祖様がお前のことを守って下さるからな。』って教えてくれたやん。お仏壇が無くなってしもたらお爺ちゃんもお婆ちゃんも居なくなるやないの。ねえお父ちゃん、お父ちゃんは死んだらそれで終いなの? お父ちゃんは『死んでも私たちを守ってやる!』とは言うてくれへんの?......ねぇ、お父ちゃん、お仏壇のことは心配せんといて。私がしっかりお祀りさせていただくから。」

 ご主人さんは、「わし、本当に嬉しゅうて......ええ子に育ってくれて......ほんま、涙が出ましたわ......」と喜んでおられました。

 その後、娘さん夫婦が引っ越して来られました。ご主人さんは往生なさいましたが、今では奥さんと娘さん夫婦がお仏壇の前でお念仏を称えておられます。往生されたご主人さんは今もご家族を導いておられるのです。

 法然上人のお言葉に「先に生まれて後を導かん、引摂縁はこれ浄土の楽しみなり。」とあるように、私たちは「死んだら終い」ではありません。この世でのお役を終えたら、極楽に往生させていただくのです。そして残していかなければならなかった家族や友人のことを守り、導くことが浄土の楽しみなのです。

 そのためにもしっかりと「南無阿弥陀仏」とお念仏をお称えさせていただかねばなりません。合掌

*引摂縁=浄土に往生した者が、この世で縁を結んだ人を救い取ること。

本山布教師 坂下雅裕
大阪教区 浄念寺