見据える
ある時、四十代半ば頃の男性と話していると健康診断の話になりました。その方が健康診断は絶対に受けないんだと言うのです。話を聞いてみると、どう やらその方は身体が悪いのは分かっているけれど、本当に分かってしまったら怖いから行きたくないということでした。強面の顔をくしゃっとさせて、「怖いの は嫌だからな」と笑って話していた思い出があります。
驚いたのは、そういった理由で健康診断を受けないと言う人が意外に多いことです。考えてみると確かに怖いものは見たくないのが私たちなのかもしれませ ん。しかしお医者さんもそれでは手の打ちようがありません。しっかりと診てもらわなくては、身体は病に蝕まれてしまう訳です。この身体の苦しみは、病院、 お医者さんに診てもらいます。では、私たちの「無常の苦しみ」はどうでしょうか。
私たちのいる世界は良いことも悪いこともあり、常に状況がころころと変わる無常の世です。そして私たち自身もまた、今日の健康は明日には一転するかもし れない、何時さっと命を失ってしまうか分からない無常の身なのです。この私たちの姿を実際に阿弥陀様は見て、想って、「無常の苦しみ」から救われていくよ う慈しみのお誓いを立てて下さいました。
目まぐるしく状況の変わる世の中で、いつ命落とすかもわからない私たちであるという現実に思わず眼を背けたくなるかもしれません。しかし、その現実を しっかり見据えた時には「辛い、嫌だ」では終わりません。どんなに「無常の苦しみ」が押し寄せて、世界や自身の変化に振り回されても、一つだけ変わらない お誓いがあります。南無阿弥陀仏と称える私たちの命を、漏れることなく、常に幸せな安らぎのあるお浄土へと続けてくれる阿弥陀様の慈しみがあるのです。
季節が緩やかに暖かくなって参りました。少しおみ足を運んでいただき、お寺、阿弥陀様の前でこの命の往き先を見据えてみてはいかがでしょうか。
合掌
本山布教師 宮田恒順
東京教区 善光寺