秋のお彼岸を前に
あるお檀家さんのお話です。その方、法事の一週間程前に転んで怪我をしてしまい、当日は車椅子でお参りに来られました。初めての車椅子にまだ
慣れず、大変苦労されているご様子でしたが、それでも愚痴をこぼさず、常にニコニコしているおばあちゃん。
時間になりましたので、お迎えに上がりました。
というのも、お寺にはエレベーターがございません。私たち僧侶がおぶって、二階の本堂までお運びします。本堂前の外階段から一段一段上っている
と「あぁ、そうか。私じゃ上れないんだ。だからお坊さん来たんだね。ありがとうねぇ。」とニコニコつぶやいていました。
しかし、本堂に着いた時、それまでニコニコしていたおばあちゃんが涙を流して震えていました。
どうされましたかと尋ねると「ずっと前の、母の葬儀の時に私、お坊さんから聞いたの。阿弥陀様がお浄土へ連れて行って下さるって。その時は、そうな
んだぁとしか思ってなかったの。でもね、今、こうして運んでもらっている時にね、あぁ、阿弥陀様もこうやって母を運んでくれたのかなぁって。ありがたいなぁ嬉しいなぁって思うと涙が出てきてねぇ。」
法事中、阿弥陀様に手を合わせ、涙交じりにお念仏をお称えされているその尊い姿に、私自身改めてお念仏のありがたさ、阿弥陀様の大慈悲を、肌に
感じた出来事でございました。
この迷いの世界を脱するための階段は、決して自力で上れるような容易いものではありません。
しかし阿弥陀様の本願にすがり、お念仏を称えれば極楽浄土へとお運びいただける、その上、先に極楽へと往生されたご先祖様との再会も叶うのですから、こんなに嬉しいことはありません。
今年もまた彼岸花が真っ赤な色をつける季節となりました。彼岸花の花言葉は「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」、実に素敵な花言葉です。
先立たれた方を想い、またお浄土で会う日を楽しみにお念仏をお称えする、そんな良きお彼岸を共に過ごしましょう。
本山布教師 横井隆昌
神奈川教区 宗泉寺