花を咲かせる

 風薫る心地良い季節になりました。

 私のいるお寺の境内の木々も春の訪れから折々に綺麗な花を咲かせています。2月には梅。3月は椿。4月は桜。季節の花たちが見頃を迎えて爛漫と咲く姿は見るだけでも和やかな気持ちにさせてもらえますし、お参りに来る方々も喜んで下さいます。

 しかし、どんなに綺麗に咲いた花であっても、愛情込めて育てた花であっても、いつまでもその綺麗な姿を保つことはできません。いつかは枯れ、いつかは散ってゆきます。花であれば、最後の散り際の中にも儚い美しさを感じることができますが、もしこれが私たち命の問題であったなら、いかがでしょうか。

 今この時を生きる環境は花も私たちも同じです。無常の風が吹くこの世界で、私たちも精一杯命の花を咲かせています。生きていれば良いこともありますが、それもずっとは続きません。良いこともあれば悪いこともあります。時に思いがけない風にさっと吹かれて、いつどこで命を落とすかもわからない、無常の世を生きる私たちです。

 阿弥陀様はそんな私たちの姿をご覧になられて、悩み苦しみのない世界へどうにか救いたいと慈しみの心で願い、「お念仏」のお誓いを立てて下さいました。

 多くの情報が錯綜するこの現代社会の中で、目の前のことに追われながら生活していますと、時に自分が今無常の世を生きている自覚すらも薄れてしまう、そんなお互いではないでしょうか。しかし、その現実を改めて見つめ直した時、自力ではどうすることもできない危機に直面した時でも絶対に見捨てないでいて下さる阿弥陀様です。どんなに時代が移ろうとも決して変わらない「お念仏」のお誓いです。

 南無阿弥陀仏と称えた先には、この世のちの世しっかりと護り導いて下さり、悩み苦しみ一切ない阿弥陀様の安らかなお浄土で、もう決して散ることのない大輪の花を間違いなく開かせていただけます。

 共にお念仏の花を咲かせてまいりましょう。

本山布教師 船橋了照
茨城教区 常繁寺